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好きな人を選ぼうとしたら、その人と同じ姿の相手が五人並んでいた。
えええ、そんなの困る!
選びたい相手は決まっているのに、どれが本人なのか分からないんだよ。
インドの古典『マハーバーラタ』に含まれるナラ王とダマヤンティーの物語には、そんな婿選びの場面がある。
どう見分けるんだろう。
顔?服?声?
気になるよね。ところが、物語が見せるのは、汗、まばたき、影といったしるし。きらびやかな神々に囲まれる中で、人間の特徴が、求めていた相手へつながっていくんだ。
ここでは、1835年刊のヘンリー・ハート・ミルマンによる公開英訳の冒頭から婿選びまでをたどるね。日本語の鎧淳訳とは別の翻訳なので、言い回しや区切りまで同じとは扱わないよ。結婚後の物語全体の結末は追わず、ダマヤンティーが誰を、どう選んだかに絞って読む案内です。
出会う前に心が動く。白鳥は二人の間で何を伝えたの?
最初に出てくるのは、ニシャダの王ナラと、ヴィダルバの王女ダマヤンティー。
カタカナが続くと、そこで本を閉じたくなるかもしれない。
でも、最初は二人を押さえれば大丈夫だよ。
ナラ=王。
ダマヤンティー=王女。
父のビーマが出たら、王女側の人物として置こう。二人の名前と父の役割を分ければ、催しを開く人も分かるよ。
二人は、会う前から互いの評判を聞いて心を引かれている。だから、白鳥が来た瞬間に、何の前触れもなく恋が始まったという順序ではないんだ。
Project Gutenbergで公開されているミルマンの英訳のBOOK Iには、ナラが金色の翼を持つ白鳥の一羽を捕まえる場面がある。その鳥が人の言葉で語りかけ、ダマヤンティーへナラのことを伝えると申し出る。
鳥が、二人の間を行き来するんだね。
そこで急に神話らしい景色が広がる。
解放された白鳥たちは王女のいる庭へ向かう。王女が一羽を追いかけると、その鳥がナラについて話し、ダマヤンティーも、同じように自分のことをナラへ伝えてほしいと応じる。
ここで見たいのは、王女が一方的に評判を聞くだけで終わっていないこと。
相手へも伝えるよう求めているんだ。
読むときには、白鳥の美しい姿を想像するだけでなく、言葉がどちらへ動いたかを追ってみて。ナラから王女へ、それから王女の返答がナラへ。この往復が分かると、二人の関係を見失いにくくなるよ。
なお、この記事の説明は英訳の出来事を日本語で要約したもの。王女のせりふを鎧淳訳から引用しているわけではないし、二人の会話を新しく作って付け足してもいない。
古典の訳本を選ぶなら、鳥が運ぶ言葉を自分のペースで読む楽しみもある。公開英訳と日本語版では、名前の綴りも、文の長さも違う。物語の流れをつかんでから日本語で読みたい人には、鎧淳訳の『ナラ王物語』が候補になるよ。
ひとまず、この場面のメモは一行でいい。
白鳥は、すでに互いへ関心を持つ二人の間で、言葉を運ぶ。
これを置いておくと、後で王女がナラを選ぼうとする理由へ戻れるんだ。
好きな相手に神々の求婚を伝える?ナラが背負った使者の役目
王女の父ビーマは、婿選びの場を設ける。
英訳ではスヴァヤンヴァラに当たる語が使われ、集まった求婚者の中から王女が相手を選ぶ場面として描かれるよ。
ここは物語の催しの説明。これをそのまま、現在のインドの結婚の仕方へ置き換えないでおこうね。
ナラもそこへ向かうけれど、道中で神々に出会う。
そして、使者としての役目を引き受けることになる。
インドラ、アグニ、ヴァルナ、ヤマ。
この四柱が、ダマヤンティーへ求婚しようとしているんだ。
あれ?
ナラも、その人を好きなんだよね?
そうなの。自分が思いを寄せている相手へ、ほかの求婚者の意向を伝えに行くことになる。ここで読む側の気持ちも引っかかる。
英訳のBOOK IIIでは、ナラはその役目をためらう。しかし神々は、先に引き受けると約束したことを持ち出す。結局、ナラは神々の力によって王女のいる場所へ入り、求婚の意向を伝える。
この場面は、初対面の二人が好きと伝え合うだけの場面ではないよ。
ナラは、自分の気持ちと、約束して引き受けた仕事の間にいるんだ。
だから、発言を読むときは、いまナラが誰のために言葉を使っているかを見ると分かりやすい。
自分のため?
神々の使者として?
迷ったときは、いま誰が誰に話しているかを、余白に矢印で書いてみて。神々からナラへ依頼、ナラから王女へ伝言、王女からナラへ返答。そのあと、ナラが神々へ報告している。相手を示す矢印があるだけで、同じ名前が続く段落でも、やり取りを整理できるよ。
同じナラが話していても、その役割が変わる。名前だけ追っていると、王女へ神々を選ぶよう勧めるのが不思議に見えるけれど、使者だと分かれば、発言の背景が見えてくるね。
王女は神々へ敬意を示しながら、ナラを望む。ナラは自分のために求婚を進められないと説明する。
そこで、ダマヤンティーから方法が示されるんだ。
神々とナラが一緒に婿選びへ来れば、その場で王女自身がナラを選ぶ。ナラが使者として自分を推薦するのではなく、王女の選択として進める方法だね。
英訳のBOOK IVを読むときは、この役割の切り替わりに注目してみて。
使者の約束をどう扱うかという難しさに対して、誰が次の道を示したか。それを押さえると、王女が待っているだけの人物としては見えなくなるよ。
このやり取りを日本語で読むなら、物語そのものの訳本が向いている。神の名前を一覧で調べる本と、人物の選択を場面の順に読む本は、読みたいことが少し違うからね。
五人の同じ姿が並んだ!王女はすぐに正解を見つけたわけではない
いよいよ、婿選びの当日。
大勢の王たちが集まる中へ、ダマヤンティーが入ってくる。求婚者の名が告げられる場面で、王女は、姿の区別がつかない五人を見る。
ナラ本人が一人。
神々が四柱。
五人ともナラの姿で並んでいたら、顔を見ただけでは選べない。
いや、これは困るって!
王女はナラを選ぶつもりで来ている。それなのに、その思いだけで、目の前の誰が本人かを知ることはできないんだ。
BOOK Vでは、ダマヤンティーが神々の特徴を見分けようと考える様子が描かれる。けれど、最初から手がかりが見えているわけではない。
ここ、大切。
「王女には特別な力があり、ひと目で恋人を見抜いた」とまとめてしまうと、途中の迷いが消えてしまう。
王女は迷い、考え、それから神々へ祈る。ナラを選ぶという自分の思いを示して、見分けられるよう願うんだ。
すると神々は、その特徴を現す。
手がかりが見えるようになってから、王女はナラを選ぶ。
順番としては、選びたい相手を決める、本人が分からず迷う、神々へ願う、特徴が現れる、見分ける。
あらすじを短くするときにも、この間の迷いを一つ残しておきたい。願えば即座に何でも分かるという話にするより、何が障害になり、どの段階で判断できるようになったかを追うほうが、場面の動きが見えてくるよ。
もし読んでいて人物が混ざったら、五人の顔を無理に描き分けようとしなくていい。
同じ姿の五人、と置いたままで、王女が見ようとした特徴を次に書こう。
この場面は、誰が好きかという問いから、誰がその本人かという問いへ移っている。同じように見えても、解くべき迷いが変わっているんだね。
読む側も、王女と一緒に一度立ち止まれる。
選ぶ思いは固まっているのに、手がかりが足りない。そのもどかしさがあるからこそ、次に人間のしるしが出たとき、話が動いたと分かる。
日本語版でこの前後をじっくり読みたい人は、あらすじだけの紹介ではなく、ナラ王の物語を訳した本かどうかを確かめてみてね。同じ『マハーバーラタ』でも、全体をまとめた案内とは、収録の範囲が違うよ。
汗とまばたきが手がかりになる。人間のしるしを一つずつ読む
さて、神々とナラは、どこが違うのか。
英訳のBOOK Vでは、神々は汗をかかず、目を動かさず、花輪がしおれず汚れず、地面に触れない姿として示される。
それに対してナラには、汗、まばたき、影、地に立つこと、花輪がしおれていることなど、人間のしるしがある。
なんだか、見方がひっくり返るね。
普段なら、しおれた花より、みずみずしい花に目が行くかもしれない。けれどここでは、花のしおれや汗が、王女の探している相手を示しているんだ。
だから「最も輝いて見える一人を選んだ」というまとめでは、この場面の面白さが抜けてしまう。
王女が選びたいのは、神々の中でも特別にきらびやかな存在ではなく、人間のナラだからね。
| 神々の特徴として描かれるもの | ナラを見分ける側のしるし |
|---|---|
| 汗をかかない | 汗が見られる |
| 目が動かない | まばたきする |
| 花輪がしおれず、汚れない | 花輪がしおれ、人間の状態が示される |
| 地面に触れない | 地上に立ち、影がある |
この表は、今回読んだミルマンの英訳の場面を整理したもの。全てのインド神話で、この一覧だけを使えば神と人を判定できるという意味ではないよ。
美術作品を見たときも同じ。描かれている人物の汗や影を勝手に推測して、ナラだと決めないようにしよう。作品には別の場面や表現の仕方があるから、その作品の解説へ戻って確かめる必要がある。
ここでは、まず物語の中の一場面として読んでおけば大丈夫。
見分けたダマヤンティーは、ナラへ花輪を掛け、夫として選ぶ。神々はそれを受けて、ナラへ恵みを与える。
意外かもしれないけれど、選ばれなかった四柱が、その場で怒って二人を罰するという終わり方ではないんだ。
ただし、物語全体は結婚で終わるわけではない。ここまでが、この記事で読む婿選びの範囲。この後の展開を、幸せに暮らしましたの一文で閉じないでおこうね。
王女の選択を、現代の恋愛へすぐに教訓として当てはめる必要もないと思う。汗をかく相手を選べば正解だとか、相手の欠点を見れば本当の愛が分かるとか。そういう判定法へ変えると、物語が置いている神と人の違いから離れてしまう。
ここは、人間であることが探すためのしるしになった場面。
まず、そこを味わおう。
日本語の本を選ぶなら、訳者と収録範囲を先に見てみよう
五人のナラという場面が気になったら、次は自分で物語を読んでみたくなるよね。
『マハーバーラタ』って長いんでしょう?
いきなり全部を買わないと、この話が読めないの?
ナラ王の物語を扱う日本語の一冊があるので、まずその収録範囲を確認してみよう。
CiNii Booksの書誌では、『ナラ王物語:ダマヤンティー姫の数奇な生涯:マハーバーラタ』は、鎧淳訳、岩波書店、1989年刊、岩波文庫の一冊と確認できる。ISBNの10桁表記は4003206711、13桁表記は9784003206713だよ。
全叙事詩を丸ごと収めた本として紹介しているわけではない。ナラ王の話に関心があるなら、ここを主題にした一冊として選べるんだ。
法藏館書店の書籍案内には、物語に加えて訳註、解説、『マハーバーラタ』とナラ王の物語に関する解説の項目が掲載されている。
ただし、この記事では日本語版の全本文を通読していない。英訳のBOOK IからVまでを読み、書誌と書籍案内で日本語版の情報を確認したうえで、関連する訳本として紹介しているよ。
だから、英訳のBOOK Vという区切りが、日本語版の同じ番号に対応するとは保証しない。日本語の本文を開いたら、そこでの章立てや名前の表記に沿って進めてね。
買う前の確認は、書名、訳者、ISBNの三つから。
中古の出品もあるので、新品か中古か、状態、送料、届く条件も販売ページで確認しよう。この記事では価格や在庫を固定して案内しないよ。
同じナラの物語でも、訳者が違う本まで同じ文章として扱わないこと。今回見つかった楽天の出品は、鎧淳訳・岩波文庫の中古本。読んでみたい版と一致するか、まずそこを見てね。
読むときのメモは、たくさん作らなくていい。
白鳥が二人の間を行き来した。
ナラは自分を望む王女へ、神々の意向を伝える使者になった。
王女は、本人を見分けられない迷いを経て、人間のナラを選んだ。
この三行があるだけで、知らない名前に引っかかったときに戻れるよ。
そして、読み直すなら、気になった動きに一つ印を付けてみて。白鳥が話を運ぶところでも、ナラが約束を守ろうとするところでも、王女が方法を示すところでもいい。
あらすじを知ったあとに本文へ進むと、出来事の答えより、その間に人がどう動いたかを見られる。結婚が決まるまでにも、ためらい、返答、提案、迷いが重なっているんだね。
五人いる、どうしよう!から始めた話が、最後には、汗やまばたきへ戻ってきた。
きらびやかな神々の中で、王女が探したのは、その人だったんだ。
次に読むときは、王女がすぐに分かった場面として通り過ぎず、手がかりを得るまでの間にも目を向けてみてね。
そこを追うと、花輪を掛ける一瞬までの物語が、ぐっと近く感じられると思うよ。