シヴァの髪とガンジス川が結び付くのは、天から降りる川の激しい流れを、シヴァが髪で受け止める物語があるからです。ガンガーは、その川を女神として表した存在でもあります。
髪から川? と聞くと、不思議な飾りに見えるかもしれないね。でも、ここには「水が来てほしい。けれど、そのまま来たら困る」という、もう一段先の問題があるんです。
地上に水を招く願いがかなっても、まだ終わりじゃない
ミシガン大学美術館の『Descent of the River Ganges』の解説では、ガンガーが天にいて、地上は干ばつに苦しんでいたと語られます。干ばつは、雨や水が足りなくなることです。
王バギーラタが祈り、神々はガンガーを地上へ降ろすことにします。ここまでなら、願いがかなってめでたし……と進みそうだよね。
ところが、天から大河がそのまま落ちてきたら? その勢いで地上が壊れてしまう危険がありました。水を招く願いと、水を受け止める手立ては、別々に必要だったわけです。
そこでバギーラタはシヴァの助けを求め、シヴァが密に絡まった髪でガンガーを受け止め、落下の勢いを和らげます。髪はただ川のそばに描き添えられたものではなく、この場面の働きを示しているんだね。
これは同館が紹介する筋立てです。ガンガーの降下にまつわる物語を、すべて同じ細部で語られる一話として扱う必要はありません。
出典:ミシガン大学美術館『Descent of the River Ganges』作品解説
川を描く白い線と、踊るシヴァが一緒に表されることもある
この物語を知ったうえで、別の一枚へ進んでみよう。
メトロポリタン美術館には、Y. G. Srimatiが1945年に描いた水彩画『Shiva Gangadhara, “Bearer of the Ganga”』があります。所蔵番号は2009.101です。題名の後半は、ガンガーを支える者という意味の英語です。
同館の解説は、細い三日月と川を表す白い筋を、題材を読み取る主な手掛かりとして挙げています。一方で、踊る姿勢、太鼓や炎を持つ手は、踊りの王としてのシヴァ、ナタラージャを示すと説明しています。
ここ、二つの名前が出たからといって、別々の神を探さなくていいんです。
川を受け止めるシヴァという題材に、踊りの王としての姿も重ねられている。川の話を描くなら必ず静止した姿、という決まりで見ると、この作品の読みどころを取りこぼしてしまいます。
出典:メトロポリタン美術館『Shiva Gangadhara, “Bearer of the Ganga”』
公式ページで絵を見るときは、まず髪の周りへ目を向けてみて。次に、川を示す線と、手に持つものへ。「髪から水が出ている」で通り過ぎず、どう受け止め、どんなシヴァの姿を重ねているのか。知っている物語を頼りに、一枚の中をもう少し歩いてみよう。