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インドの二大叙事詩のひとつ『ラーマーヤナ』。ラーマ王子が、魔王ラーヴァナにさらわれた妃シーターを、猿の勇士ハヌマーンたちの力を借りて救い出す物語として知られています。でも、長い物語なので、どこから読めばいいのか迷ってしまう方も多いのではないでしょうか。
この記事では、インド工科大学カーンプル校(IIT Kanpur)が公開しているヴァールミーキ・ラーマーヤナの電子テキストの巻構成、ラルフ・T・H・グリフィスによる英訳(プロジェクト・グーテンベルクで公開)の各章の見出し、そしてコトバンクに収録されている百科事典の説明をもとに、全7巻の流れを巻ごとにたどります。
※人名や地名のカタカナ表記は、本や訳者によって違いがあります。この記事では、よく使われる表記を中心にしています。
ラーマーヤナとはどんな物語?
7編2万4000詩節の大叙事詩
コトバンクに収録されている世界大百科事典では、『ラーマーヤナ』は古代インドのサンスクリット語で書かれ、7編2万4000詩節からなると説明されています。「最初の詩人(アーディ・カビ)」と称される詩聖ヴァールミーキ(バールミーキ)の作と伝えられています。
日本大百科全書(ニッポニカ)では、『ラーマーヤナ』とは「ラーマ王行伝」という意味で、作者はヴァールミーキといわれるが、おそらく彼は編者であろう、とも説明されています。
いつごろできたの?
成立時期については、百科事典によって説明に幅があります。世界大百科事典では最終的に現存の形になったのはおそらく3世紀ころと推定され、日本大百科全書では現存の形になったのは2世紀末であろうといわれる、と書かれています。
また日本大百科全書では、現存の第1編と第7編は2世紀ごろに付加されたもので、原形は第2編から第6編までであったと考えられる、とも説明されています。
| 項目 | 百科事典での説明 |
|---|---|
| 言語 | サンスクリット語 |
| 構成 | 7編(7巻)、2万4000詩節 |
| 作者 | ヴァールミーキと伝えられる(編者とする説明もある) |
| 意味 | 「ラーマ王行伝」 |
| 成立 | 2世紀末~3世紀ころに現存の形になったと推定 |
全7巻の名前
IIT Kanpurが公開しているヴァールミーキ・ラーマーヤナの電子テキストでは、7つの巻は次のような英語名で紹介されています。
| 巻 | IIT Kanpurの英語名 | 日本語の意味 |
|---|---|---|
| 第1巻 | Book of Youth(バーラ・カーンダ) | 少年の巻 |
| 第2巻 | Book of Ayodhya | アヨーディヤーの巻 |
| 第3巻 | Book of the Forest(アラニヤ・カーンダ) | 森の巻 |
| 第4巻 | Book of Kishkindha | キシュキンダーの巻 |
| 第5巻 | Beautiful Book(スンダラ・カーンダ) | 美しの巻 |
| 第6巻 | Book of War(ユッダ・カーンダ) | 戦争の巻 |
| 第7巻 | The Last Book(ウッタラ・カーンダ) | 最後の巻 |
巻ごとにたどるあらすじ
ここからは、グリフィスの英訳の章の見出しと百科事典の説明をもとに、7つの巻のあらすじを順番にたどります。
1. 少年の巻(バーラ・カーンダ)
物語は、アヨーディヤーを治めるダシャラタ王から始まります。世界大百科事典では、ダシャラタ王には3人の妃がいたが王子がいなかったので、神に祈願して4人の王子を得た、と紹介されています。長男がラーマで、魔類を滅ぼすためにヴィシュヌ神が人間に化身したものとされています。
グリフィスの英訳の第1巻には、「王子たちの誕生」の章のあと、聖仙ヴィシュヴァーミトラが訪れ、ラーマが女の悪鬼ターダカーを倒す場面や、ジャナカ王の弓を折る場面、そして婚礼の場面などが続きます。ラーマはここで、ジャナカ王の娘シーターを妻に迎えます。
2. アヨーディヤーの巻
第2巻では、ラーマが王位を継ぐ準備が進む中、継母カイケーイーが王との約束をたてにとって、自分の子バラタを王位につけ、ラーマを14年間追放させます。世界大百科事典でも、この流れが紹介されています。
ラーマは、シーターと弟ラクシュマナとともに森へ旅立ちます。グリフィスの英訳では、ダシャラタ王の死、バラタがラーマを迎えに森へ行く場面、そしてバラタがラーマのサンダル(履物)を持ち帰る場面などが章の見出しになっています。世界大百科事典では、バラタはラーマが帰国するまで、王位をあけて待ったと説明されています。
3. 森の巻(アラニヤ・カーンダ)
第3巻では、ラーマたちは森の中で暮らします。世界大百科事典では、ラーマがダンダカの森で悪魔を退治したので、ランカーの王ラーヴァナは彼を憎み、またシーターの美しさにひかれて彼女をさらい、ランカーの王宮に閉じ込めた、と説明されています。
グリフィスの英訳では、ラーヴァナの妹シュールパナカーの場面、魔物マーリーチャが不思議な鹿に姿を変える場面、そしてシーターがさらわれる場面、鳥の王ジャターユスがラーヴァナと戦う場面が続きます。
グリフィスの英訳の第3巻では、シュールパナカーがラーマに名乗る場面で、ラーヴァナは自分の兄で、眠り続けるクンバカルナや、心正しいヴィビーシャナもきょうだいだと語っています。のちの戦争の巻で登場する人物たちが、ここで紹介されているのですね。
4. キシュキンダーの巻
第4巻では、ラーマとラクシュマナがシーターを探す中で、猿の王スグリーヴァと出会います。グリフィスの英訳では、ハヌマーンの言葉、ラーマとスグリーヴァの同盟、スグリーヴァの兄ヴァーリン(バーリ)の死、そして猿の軍勢が東西南北に分かれてシーターを探しに出る場面が章の見出しになっています。
巻の終わりでは、海の向こうにあるランカーへ渡る役目を、ハヌマーンが引き受けることになります。次の第5巻へとつながる大切な場面です。
世界大百科事典では、ラーマが猿の王スグリーヴァの窮地を救ったので、神猿ハヌマーン(ハヌマット)をはじめとする猿軍の支援を得た、と説明されています。
5. 美しの巻(スンダラ・カーンダ)
第5巻の主役はハヌマーンです。グリフィスの英訳は「ハヌマーンの跳躍」という章から始まり、ハヌマーンが海を越えてランカーに入り、アショーカの林でシーターを見つけ、ラーマの指輪を見せる場面が続きます。そして、ハヌマーンが捕まり、ランカーの町が燃える場面のあと、ラーマのもとへ知らせを持ち帰ります。
6. 戦争の巻(ユッダ・カーンダ)
第6巻では、ラーマが猿の軍勢とともにランカーに攻め入ります。グリフィスの英訳では、ラーヴァナの弟ヴィビーシャナがラーマ側につく場面や、巨人クンバカルナとの戦い、ラーヴァナの息子インドラジットとの戦い、そしてラクシュマナが傷つき、薬草で回復する場面などが章の見出しになっています。
最後はラーヴァナが倒され、シーターが救い出されます。一行は空を飛ぶ車でアヨーディヤーに戻り、ラーマは王位につきます。
7. 最後の巻(ウッタラ・カーンダ)
第7巻では、王位についたあとのラーマが描かれます。世界大百科事典では、国民の間にシーターの貞潔を疑う声があるのを知ったラーマが、私情を殺してシーターを捨て、シーターはラーマとのあいだに生まれた2人の息子を残して、母なる大地に抱かれてこの世を去る、と説明されています。
ブリタニカ国際大百科事典の説明では、ラーマはやがて昇天してヴィシュヌ神にかえる、とされています。
| 巻 | 主なできごと |
|---|---|
| 1. 少年の巻 | 4人の王子の誕生、ラーマとシーターの結婚 |
| 2. アヨーディヤーの巻 | ラーマの追放、ダシャラタ王の死、バラタのサンダル |
| 3. 森の巻 | 森での暮らし、シーターがラーヴァナにさらわれる |
| 4. キシュキンダーの巻 | スグリーヴァとの同盟、猿の軍勢の捜索 |
| 5. 美しの巻 | ハヌマーンがランカーでシーターを見つける |
| 6. 戦争の巻 | ラーヴァナとの戦い、シーターの救出、ラーマの即位 |
| 7. 最後の巻 | シーターとの別れ、2人の息子 |
読む前に知りたいこと
第1巻と第7巻は後から加わったとされる
日本大百科全書では、第1編と第7編で、歴史上の人物であるラーマをヴィシュヌ神の化身としていることが、この叙事詩に宗教的な意味を与え、のちにラーマ崇拝を流行させるもとになった、と説明されています。物語の中心を先に知りたい方は、第2巻から第6巻の流れをまずつかんでおくと読みやすいかもしれません。
「最初のカーヴィヤ」と呼ばれる
ブリタニカ国際大百科事典では、ラーマーヤナの文体は技巧的で洗練されていて、のちに発達した美文体の文学作品の起源となったものとして「最初のカーヴィヤ(アーディカーヴィヤ)」と呼ばれる、と説明されています。
日本にも伝わっていた
日本大百科全書では、ラーマーヤナの物語は、中国では漢訳仏典の中に仏教説話の形で含まれ、それらを通して日本にも伝わり、鎌倉時代の『宝物集』にこの物語が含まれていると紹介されています。遠いインドの物語が、昔の日本でも語られていたのですね。
東南アジアでも親しまれている
同じく日本大百科全書では、ラーマーヤナはジャワ、マレー、タイなど東南アジアの国々に広がり、劇や舞踊、影絵芝居になり、美術や彫刻にも優れた作品が残っていると紹介されています。
ラーマーヤナでよくある質問
マハーバーラタとの違いは?
世界大百科事典では、もうひとつの大叙事詩『マハーバーラタ』は18編約10万詩節からなる大作で、バラタ族の内紛と大戦争が主な筋とされています。ラーマーヤナは7編2万4000詩節で、マハーバーラタと比べると文体も構成もより洗練されている、と説明されています。
日本語で読める?
日本語の抄訳や、子ども向けにわかりやすくまとめた本も出版されています。日本大百科全書の参考文献には、田中於菟弥訳『世界文学大系4 インド集 ラーマーヤナ(抄)』(1959年、筑摩書房)が挙げられています。
英語の原典訳を読むには?
ラルフ・T・H・グリフィスによる英訳は、プロジェクト・グーテンベルクで無料公開されています。また、IIT Kanpurのサイトでは、サンスクリット語の原文を巻ごとに読むことができます。
ラーマーヤナは7巻の流れをつかむと楽しくなる
ラーマーヤナの7巻について、もう一度まとめておきます。
- ラーマーヤナは7編2万4000詩節のサンスクリット大叙事詩で、ヴァールミーキの作と伝えられる
- 第1巻でラーマが生まれ、シーターと結婚する
- 第2巻でラーマは14年間追放され、第3巻でシーターがラーヴァナにさらわれる
- 第4巻で猿の王スグリーヴァと同盟し、第5巻でハヌマーンがシーターを見つける
- 第6巻でラーヴァナを倒してシーターを救い、ラーマが王位につく
- 第7巻ではシーターとの別れが描かれる。第1巻と第7巻は後から加わったとされる
全体の流れを知ってから読むと、長い物語でも迷子になりにくくなります。気になる巻から、ラーマとシーターの物語の世界に触れてみてください。