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求めたのは、三歩分だけの土地。
もしこんな頼み方をされたら、ほんの小さな場所を想像しそうだよね。でもインド神話のヴァーマナは、その三歩で世界の支配を変えてしまいます。
正体は、ヒンドゥー教の神ヴィシュヌ。小柄な姿で現れ、約束を得ると巨大になります。三歩目を置くのは、土地を与えると認めたバリ王の頭。
えっ、どうして頭が出てくるの?
今回はメトロポリタン美術館の作品解説に沿って、約束から三歩目までを追ってみよう。絵を見るときに、小さい姿と大きく足を上げた姿がつながる話です。
三歩の約束。でも、歩く人の大きさが変わる
美術館の解説では、魔神の王バリが宇宙を支配し、神々が力を失ったあと、ヴァーマナが現れます。王のもとを訪れ、三歩でまたげる分の土地を求め、王は認めます。
ところが、そこから巨大な姿へ。最初の一歩で大地を、二歩目で地と天の間の世界を覆います。
三歩と聞いていたのに、もうそんなところまで?!
残る一歩に対し、バリは頭を下げ、自分の頭へ足を置くよう求めます。最後は足で押され、地下の世界を治めることになります。
ただ倒されて消える、で話が終わるわけではないんだね。王の頭は、最初に交わした約束の「残り一歩」が置かれる場所です。
出典:メトロポリタン美術館「Vamana and King Bali」
ヴァーマナとトリヴィクラマは、別の神?
この話をたどると「トリヴィクラマ」という名前も出てきます。ウォルターズ美術館の解説では、小柄な姿で来たヴィシュヌが変わる、巨人の姿をこの名で呼んでいます。
大英博物館の一枚の絵の解説にも、ヴィシュヌがヴァーマナ/トリヴィクラマとして表されているとあります。腕は四本、バリは座って合掌し、その頭に足が置かれています。さらに、踏み出す脚は右肩より上に描かれている、と説明されています。
名前が増えても、いきなり登場人物がもう一人増えた、と考えなくて大丈夫。
ここは「誰なのか」に加えて、「どの姿で、何をしているところか」を見るのが近道です。小さい体で願い出る段階と、世界をまたぐ段階を分けると、同じ神の姿の変化として追えます。
出典:ウォルターズ美術館「Vamana」、大英博物館の作品解説・登録番号1993,0720,0.1
日本語の本では「朱儒となったヴィシュヌ」を探してみよう
もう少し物語を読みたいなら、上村勝彦『インド神話―マハーバーラタの神々』が候補です。筑摩書房が公開する目次には、第三章のヴィシュヌの化身、神が別の姿で現れる話の中に「朱儒となったヴィシュヌ」があります。
「朱儒」は「しゅじゅ」と読み、小柄な人を指す古い言葉。目次の見出しでは、この化身を探す手がかりになります。
同名の本はほかにもあるので、著者名とちくま学芸文庫であることも合わせて見てね。本を区別する番号、ISBNは9784480087300です。
ここで紹介したのは博物館のあらすじで、本の文章をそのまま紹介したものではありません。日本語の本で、語られる順序や細部を読みたい人に向いた選択です。
出典:筑摩書房の内容紹介・目次
三歩を数えるだけなら、一、二、三。それなのに、頼みに来た姿と歩き出す姿で、話の大きさがまるで変わる。次に足を高く上げたヴィシュヌの絵を見たら、足の先と、その下のバリまで目を向けてみてね。