ナラシンハはなぜ人獅子?夕暮れ・敷居・膝の意味と、戦わない像の見方

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ライオンの顔をした神様が、人を膝にのせている。ナラシンハの作品解説を読んでいて、どうしてこの姿、この場所なの?と思ったら。

姿だけでなく、相手が望んだ「死なないための条件」まで読むと、つながります。人でも獣でもない姿。昼と夜の境目。建物の内と外の境目。そして地面にも空にも当たらない膝の上。見た目の細部が、物語の条件に結び付いているんです。

でも、戦う姿がナラシンハの全部ではありません。静かに座るヨーガ・ナラシンハの像もあります。そこまで見比べると、怖そう、で止まっていた神様に別の表情が見えてきますよ。

この記事では、所蔵機関が公開する作品解説を手がかりに、物語と図像を読みます。残酷な場面の詳しい描写は控えますが、戦いと死を扱う話です。作品画像を開くときも、その点を踏まえて選んでくださいね。

目次

人でも獣でもない姿。条件を一つずつ読むと、ナラシンハが見えてくる

ナラシンハは、ヴィシュヌが取る化身の一つで、人と獅子が合わさった姿です。相手はヒラニヤカシプ。その息子プラフラーダは、ヴィシュヌを信仰する人物として物語に登場します。

名前が長いので、最初は父と息子の関係だけ押さえよう。戦う相手が父ヒラニヤカシプ、守られる少年が息子プラフラーダ。この二人が分かると、作品の脇にいる人物も追いやすくなります。

Royal Collection Trustの連作解説は、『バーガヴァタ・プラーナ』第七巻の物語を背景として紹介しています。そこでヒラニヤカシプがブラフマーに願うのは、死なないための細かな条件です。

人や動物に殺されず、内でも外でも、昼でも夜でも、地面でも空でも死なないように。そうした対になる条件を重ねると、もう逃れるところはないように感じますよね。

ところが、物語はその条件の間へ進みます。同じ所蔵機関の解説では、人獅子の姿に加え、夕暮れ、宮殿の敷居、膝という要素が結び付けられています。単に強い動物へ変身して勝つ、と読むだけでは、この組み合わせの意味を落としてしまうんです。

ここ、面白いところ!姿だけを見ていたときには、なぜ獅子なのかで止まる。条件を読むと、なぜ人の要素も残るのか、なぜ場所や時刻まで大切なのかへ、疑問がつながっていきます。

ただし、今回の作品解説から、あらゆる伝承の条件を全部一つにそろえることはしません。王が何を願い、どのように倒されるかは、いま読んでいる資料の筋に沿って確認しよう。別の再話にある条件を、見当たらない箇所へ足さなくて大丈夫です。

条件をメモするなら、願いの側と、結末の側を左右に置くと読みやすいでしょう。昼・夜の条件に夕暮れが対応する。内・外の条件には敷居が対応する。そうして対を追えば、長い固有名詞を全部覚える前でも、話の仕組みに近づけます。

もう少し日本語で読んでみたい人には、上村勝彦『インド神話 マハーバーラタの神々』が候補になります。版元の目次に「人獅子となったヴィシュヌ」がある本です。美術作品の解説と、そのまま同じ文章が載るという意味ではなく、物語を読む次の入口として案内します。

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柱から現れた絵と、膝の上の結末は、同じ一場面とは限らない

物語の流れが分かったら、次は一枚の作品がどの瞬間を選んでいるかを見てみよう。

Royal Collection TrustのRCIN 925239は、ナラシンハが柱から現れ、ヒラニヤカシプに襲いかかる場面の作品です。解説では、ナインスークの一族の工房に関わる、1775〜90年ごろの絵とされています。

この作品の説明に、膝と敷居、夕暮れの話がある。なら、その全部がこの一枚に描かれているのかな?

実は解説は、王が敷居で膝の上に置かれて倒されるのを、連作の次の絵の場面として説明しています。いま表示される一枚と、その先の筋が、同じ文章の中で紹介されているんですね。

作品ページを読むときは、「この絵の中で起きていること」と「前後の物語を補う説明」を分けてみてください。物語の結末を知ってから作品へ戻ると、まだそこまで進んでいない一枚にも、結末の場面を見たつもりになりやすいからです。

この絵のプラフラーダについて、所蔵機関は、右側へ逃れながら振り返る姿を説明しています。その振り返りを、ナラシンハが信仰する神であると気づいたことを示唆する、と読んでいます。作者が残した台詞として紹介するのではなく、作品への解釈として受け取ろう。

大きく描かれた神と王だけを追う前に、少年のいる場所と向きを探す。そういう見方をすると、救われる側の人物にも目が向きます。戦いの勝敗を知ることから、一枚の絵が何を見せようとしているかを考えるほうへ進めますね。

また、同機関が持つこの連作の絵は16枚で、すべての場面が一そろい残るという説明ではありません。一つのコレクションで見られる範囲と、物語全体の長さは違います。見当たらない場面があるときも、その話がもともとなかったと決めず、連作の残り方を確認しよう。

なお、この記事は各所蔵機関の文章を根拠にした読み方の案内です。ここに画像を転載しているわけではなく、細部をすべて独自に鑑定した説明でもありません。元ページを開くとき、まず作品番号を確かめると、違う時代のナラシンハの絵と混ざりにくくなります。

絵の解説だけでは前後が追いにくいときに、物語を読む本へ戻る。そのあとでまた同じ作品を見る。この行き来ができるよう、作品番号と、調べた人物名を一緒にメモしておくのがおすすめです。

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石彫では、柱や脇の人物にも手がかりがある

絵の一枚を読んだあと、彫刻の説明へ移ると、また別の見どころがあります。Norton Simon Museumの人獅子像は、作品番号F.1975.17.47.S、インドのビハール、11世紀の作品として紹介されています。

音声ガイドの英語の文字起こしも公開されています。ここではその文章を手がかりに読みます。神様の顔だけでなく、脇に置かれたものの説明に注目してみて。

同館は、左側の獅子頭のある柱を、ナラシンハが現れた柱を表すものとして説明しています。中心の大きな動きとは別に、物語の入口を示す手がかりが置かれているんですね。

柱そのものが作品の中心に大きく割れていなくても、柱を表すものがあれば、その出現場面と結び付けて読めます。絵と彫刻が、同じ出来事を同じ形で示す必要はありません。一枚の絵と同じ配置を探すより、その作品の解説で何が手がかりとされるかを追うと、見方を変えられます。

右側の小さな女性像についても説明がありますが、こちらは誰なのかを一人に確定していません。ヴィシュヌの妃ラクシュミー、または王の妃の可能性を挙げています。

ここで、脇の人物はみんな同じ名前、と暗記してしまうと、別の像へ行ったときに困ります。この作品については二つの候補がある、と残しておこう。分からないところを保留しても、柱の意味や中心場面について読めたことは失われません。

四本の腕や持物の説明にも、所蔵機関の読みが含まれます。何が写っているかという記述と、それをどう解釈するかを続けて読めるのが、こうした公開解説の助けになるところです。名称だけを拾うより、なぜその説明になるのかにも目を向けてみてください。

この像と前の絵は、年代も場所も異なります。違いがあるから一方が間違い、と片付けず、その作品がどのような姿で物語を表しているかを見よう。並べるときも、作品名と所蔵先を付けておくと、特定の一作の説明をナラシンハ全体の決まりにしなくて済みます。

そして、この所蔵機関の音声ガイドの再話を、先ほどのRoyal Collection Trustの再話へ、細部まで継ぎ足すことは避けます。今回は条件と結末はRoyal Collection Trust、石彫の脇の像はNorton Simon Museumと、確認した資料を示しながら読んでいます。

物語の概要を一冊でたどり、個別の作品はその所蔵館の解説へ戻る。神話の本と作品ページに、それぞれ得意なところを任せると、図像の名前当てだけで終わらない読書になりますよ。

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静かに座るヨーガ・ナラシンハもいる。膝のまわりを見てみよう

ここまで戦いの場面が続きました。でも、次の像は、王を膝にのせている姿とは違います。

LACMAのヨーガ・ナラシンハは、タミル・ナードゥで作られた15世紀の銅合金像として紹介されています。作品番号はM.91.232.8。所蔵機関の解説は、戦いのあとに瞑想する穏やかな姿を説明しています。

ナラシンハにも、こういう姿があるんですね。獅子の頭という共通点だけを見て、次は誰を倒しているのかと探す前に、座り方へ目を向けてみよう。

同館の説明では、脚を組んだ姿勢を支える帯が膝のまわりにあり、前へ出した両手は膝に置かれています。上の二本の手には円盤と法螺貝があります。膝が大切な場所でも、前に見た物語の膝の上と、同じ意味で読むわけではありません。

戦う場面の像なら、相手がどこにいるかが気になる。こちらの像なら、体の姿勢や、それを支える帯が手がかりになる。同じ神様でも、作品が示す行動に合わせて見るところを変えられます。

LACMAは、南インドで12世紀ごろから、こうした穏やかなヨーガの姿も表されると説明しています。ただし、それをすべての地域で戦う像がなくなった、という年表へ変えないでください。別の姿が表されることと、それまでの姿が消えることは同じではありません。

怖い神様なのか、穏やかな神様なのか、どちらか一方へ決めるより、この作品は何をしている姿かと尋ねてみよう。今見ている像を具体的に読むほうが、顔の印象だけから性格を決めるより近づけます。

今回の三つの作例も、まず題材を短く書けば整理できます。柱から出て襲いかかる絵、王との戦いを示す石彫、座って瞑想する銅合金像。これだけでも、同じ名前の作品を一つの場面へ重ねずに済みますね。

大きさにも違いがあります。LACMAのこの像は高さ13.33cm、先ほどのNorton Simon Museumの石彫は高さ118.7cmという案内です。画面では同じくらいの大きさに表示されても、実物の規模は違います。比較するときは、姿勢や持物に加えて寸法欄も見ると、作品の違いをもう一つつかめますね。

穏やかな姿から神話へ興味が出た人も、本では「人獅子となったヴィシュヌ」の項目が入口になります。ただし、紹介する本がLACMAのこの像を図版で扱うかは未確認です。個体の持物や年代は、上の所蔵機関のページへ戻ってください。

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本では「人獅子」の項目へ。作品の筋と同じかも楽しみながら読もう

日本語で物語の続きを読む候補は、上村勝彦著、筑摩書房の『インド神話 マハーバーラタの神々』です。ちくま学芸文庫で、ISBNは9784480087300。

筑摩書房の公開目次では、第三章がヴィシュヌ神話、その中の化身を扱う部分に「人獅子となったヴィシュヌ」があります。ナラシンハという表記だけを目次で探して見つからなくても、日本語の「人獅子」が入口になるんですね。

版元は、『マハーバーラタ』を中心に神話を選び、ほかの伝承とも比較する本として紹介しています。そのため、今回の『バーガヴァタ・プラーナ』の絵画解説と、細部が全部そろう前提では薦めません。どの資料の話かを意識しながら、日本語で読み進めたい人の候補です。

まず、人と獅子の姿がなぜ必要だったのかを読む。その次に、自分が気になった条件が書かれているか確かめる。違いがあれば、どちらかを覚え違いと決めず、本の出典や説明へ戻ろう。複数の話を読めるからこそ、違いにも気づけます。

今回、楽天では同じISBN・著者・題名の紙の文庫の販売ページを確認しています。検索結果には中古本もあるので、新品と中古の別、状態、送料などは選んだ商品で見てください。電子版と決めつけず、欲しい形式も確かめてね。

この本の全本文や、各所蔵館の作例の収録までは確認していません。公開目次から分かるのは、物語を扱う項目があることです。図像の写真集を探しているなら、それとは目的が違うため、内容見本や図版の案内を確認してから選びましょう。

ナラシンハの獅子の顔だけを覚えるより、柱、少年、膝、そして静かに座る姿まで、気になるところを一つ増やしてみる。

次に同じ神様の作品を見たら、今度はどの瞬間だろう?と読めます。まずは一つの作品ページと、一つの物語から。そこがつながると、長かった神様の名前も、場面と一緒に覚えやすくなりますよ。

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この記事を書いた人

インド神話に登場する神々と物語を、文化的な背景にも目を向けながら読んでいます。

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